親愛なる物語たち
囲炉裏端の青い犬03
魔法の尻尾
青い犬は、1日の殆どの時間を囲炉裏端で過ごしている。
だけど、時々思いついた様にゆっくりと腰を上げ、のっそりと家を出て散策に出かけるんだ。
彼だけの時もあれば、僕がついて行ったりもする。
僕の家があるこの土地は、1キロ歩いても誰にも会わないこともある田舎だ。
ゆっくりと散策が出来る。
以前は、青い犬を見ると、この土地の人間たちは一様に驚いていた。
幼い子供は、突然泣き出しパンツを濡らした。
自転車に乗っていた中学生は、視線を奪われ頭から田んぼに突っ込んだ。
畑仕事をしていた老婆は、手を合わせ「ナンマイダ、ナンマイダ」と御経を唱えた。
そりゃ無理もない、彼は世にも珍しい真っ青な犬なんだからね。
だけどそれも短い間だったな。
そんな彼らの驚き、偏見、恐怖に、青い犬は真っ直ぐに誠実に向き合った。
平静と笑顔、ユーモアを身体全体を使って表したのさ。
特に彼の自慢の尻尾は、そんな時とても役に立っていたよ。
ビュンビュン振って、相手に愛を浴びせかけた。
「俺は青い犬だからね、世界に一頭しかいない珍しい存在さ。
君だって俺を初めて見た時には驚いていたじゃないか。
知らないってことは、驚き、偏見を生み出し、怒りや恐怖の元になる。」
彼は舌を出し、悪戯っぽく笑っている。
「俺は俺自身を愛とユーモアに変換して、それを尻尾を振って放出してるんだ。
そうすれば、相手の心に敵意は生まれないんだ。」
彼の尻尾は、まるで魔法の杖の様だよ。
囲炉裏端の青い犬は、誰とでも仲良くなれる魔法の尻尾を持っている。
writing : イヌノラジオ
painting : が~でん