親愛なる物語たち
囲炉裏端の青い犬07
橋を渡る老婆
その老婆は、橋を渡って隣の村からやって来る。
青い犬に会うためにやって来る。
たどたどしい足取りで、頼りない細い木造の橋を渡ってやって来る。
青い犬は、その様子を心配そうにうかがいながら老婆に近づいていく。
こちら側の橋の袂で、彼女と同じ場所に腰を下ろす。
老婆が一方的に話し、青い犬はそれを頷く様に静かに聞いている。
川の水が流れる音と老婆の素敵なしゃがれ声は、混ざり合って心地よい音楽になる。
時々、彼女と彼は目を合わせると、老婆は決まって少女の様に無邪気な笑い声をあげる。
夕暮れ時、オレンジ色に染まっても、その橋は相変わらず頼りなさそうだ。
そのオレンジ色の橋を一歩一歩確かめる様に歩いて、老婆は隣村に帰って行く。
「あの橋は、とても素敵なんだ。
俺の大切な友達を通してくれる。
あの橋が無かったら、彼女には出会えなかっただろうね。
壁は嫌いだけど、橋は好きだよ。
壁は色々なものを遠ざけ拒絶するけど、橋は繋いでくれる。
沢山の素敵な橋が、色々な場所に架かると良いね。
勿論、心の中にもね。」
そう言った青い犬は、囲炉裏端で気持ち良さそうに伸びをした。
writing : イヌノラジオ
painting : が~でん