親愛なる物語たち

南の海の失恋ジュゴン


知っているかい?
日本から遠く離れた南の海には、失恋ジュゴンが住んでいる。
 


この海に一緒に住んでいたガールフレンドは、彼を残して出て行ったらしい。
他の雄を選んだのかな?
 


今の彼の遊び相手は、この海の漁師のおじさん。
 


それと世界中からやって来る観光客たち。
 


「この海には餌の水草が豊富にあるから、無理してガールフレンドについて行かなかったんじゃない?
 花より団子。」
と笑いながら、みんなは彼を見守っている。
 


だけど、本当にそうかな?って僕は思う。
ガールフレンドよりも、漁師のおじさんや彼に会いに来る人間たちを、選んだのかもしれない。
もしかすると、振られたのはガールフレンドの方かもしれない。
水の中の同種の雌よりも、船の上の友達の方が好きだったのかもね。
 


彼は、失恋ジュゴンじゃないかもね。
野生動物と人間のコミュニケーションの無限の可能性を感じさせてくれる、親愛なる存在。
愛のジュゴン、だと思う。
 

 


photos:ひとみ
writhing:イヌノラジオ