虹かかる庭のエッセイたち

ネコ、義理堅し

もう30年も前の話。

私の家の隣に小さいアパートがあった。
その一室、6畳一間の部屋に、20代の女性が暮らしていた。
彼女は、子ネコを拾ってかわいがっていた。
生後半年くらいの茶トラ。
明るいオレンジ色の女の子だ。
アパートの部屋の外も散歩している、元気な子。

ある日、彼女は遠くに引っ越すことになった。
幸い引っ越し先のアパートでも、ネコを飼っていいことになっていた。
引っ越しの当日、彼女はカゴにネコを入れて連れて行こうとしたが、その日に限ってネコは散歩から戻ってこなかった。
引っ越し荷物と一緒にトラックに乗っていくつもりだったが、トラックだけ先に出発してもらった。
その夜も茶トラは帰ってこず、翌日彼女は諦めて発つことになった。
彼女は、泣きながら私に事情を話した。
「もし帰ってくることがあったら、ご飯をあげてくれませんか」

そのすぐ後だったのだ。
茶トラが帰ってきたのは。
茶トラは、飼い主であるお姉さんがいなくなったことを察知して、動揺していた。
うろうろしながら、悲しく鳴いた。

ところで、うちには、しましまネコがいた。
これが、この茶トラとは仲が悪い。
茶トラを家に上げることはできなかった。
私は白いタイル張りのうちの玄関に、ネコ缶を開けて器に移し、茶トラを呼んで食べさせた。

その翌朝、私が家を出ようと、ドアを開けたら。
白いタイルに、それはおいてあった。
バッタだ。
死んだバッタが3匹。
頭の方向を揃えて、等間隔に、きっちりと並べてあった。
「ああ…気持ちだけで良かったんだけどなあ…」
申し訳ないのだが、私は、箒とちりとりで贈り物を片付けた。
その翌日は、バッタ・コオロギ・バッタの順で、きれいに並べた贈り物があった。

1ヶ月後、茶トラは、私の叔母の家が引き取ってくれた。
彼女はとても大切にされ、老衰で亡くなるまで、幸せな毎日を送った。

 
c:miu9