虹かかる庭のエッセイたち

君はだれ?

タカシは、家の近所を一人で歩いていた。
よく晴れた気持ちの良い日だ。

「兄ぃ!!」
男の子がタカシに走り寄ってきた。
10歳くらいか。
知らない子だ。
「タカシ兄ぃ!」
こちらは知らなくても、向こうは自分のことをよく知っている風だ。
「だれだよ、君?」
タカシは尋ねた。
しかし、その子は何も答えずに、ただにこにことかわいらしい笑顔でタカシを見つめていた。
なぜだか憎めない。
「タカシ兄ぃ、今までありがとう」
「え、なにが?」
自分はこの子になにかしてあげたのだろうか?
記憶がない。

「ぼく、そろそろ行くね」
男の子は、タカシに背を向けて歩き出した。

その時、タカシは気がついた。
この子が誰なのかを。
「待てよ!」
男の子は一度振り返り、また笑った。
身をかがめると、大きくジャンプした。
「待てよ!行くなよ!」
タカシは叫んだ。
「ケンケン!!おまえ、ケンケンだろ?!」
ジャンプした男の子の姿は太陽に吸い込まれるように遠ざかった。
まぶしい光の中に、小さな猫のシルエットが見えた。
「ありがとう、タカシ兄ぃ」
遠ざかるシルエットから声がした。
「行くなよ!」
タカシは叫び続けた。

目が覚めて、気がついた。
自分が泣いていたことに。

ケンケンは、タカシが拾って育てたネコだ。
遠くへ旅立ったのは、数日前だった。

「ケンケンが、オレに挨拶しに来たんだ。あれは夢じゃなかったよ」
従兄弟のタカシは、私にそう話してくれた。

 
c:miu9