虹かかる庭のエッセイたち

白ネコとウエディングドレス

彼女は、テニススクールに通う途中だった。
その道に、少し汚れた、白っぽい、小さな毛玉が落ちていた。
生後3 ヶ月くらいの手の平に乗るほどの、小さな白ネコ。
ためらいもなく、彼女はその小さな命を拾い上げる。
ブランドのおしゃれなバッグに大切にしまい込んだ。

テニススクールのロッカーにバッグをそっと入れながら、バッグの『なかみ』に、「ちょっと待っててね」と声をかけた。

帰宅した彼女は、両親に白ネコを見せた。
両親も、満面の笑顔で、毛玉を抱き上げる。
部屋の中にいたイヌやネコも集まってくる。
そう、この家には、先住のお友達が数匹いるのだ。
みんな、わけあってこの家の家族になった。
中には、辛い経験をした子もいるが、今はほんとうに穏やかな目をしている。
その目はうれしそうに小さい後輩をみつめていた。

『ほうっておけないじゃない』それは家族みんなの口癖だった。

灰色に汚れていた子猫は、きれいな真っ白子ネコに生まれ変わった。

白ネコは、家の外に出たがった。
元ノラだし、散歩も好きなようだ。
したいようにさせてやろうと、家族は散歩を許してあげた。

ある日、近所の女性からこんな話を持ちかけられた。
「あの白ネコちゃんを、うちに引き取らせていただけないでしょうか」
彼女と家族は、びっくりした。
「うちの主人が鬱病を煩っていて、引きこもっているんです。
でも、あの白ネコちゃんが毎日うちにやってきてくれて、主人の側にいるんです。
主人はその時は笑顔になって、とっても楽しそうなんです。
大切になさっているネコちゃんなのはわかっていますが、どうかお願いできないでしょうか」
そうだったのか。
あの子は、毎日、心が辛くなってしまった人のお見舞いに行っていたのだ。
あの子、やさしい子だから。
きっと『ほうっておけないよ』と思ったのだ。

家族は白ネコを養子に出した。
近所だから、いつでも会える。
とはいえ、やはり、とてもとても淋しかった。

それから3 年後のことだった。
あの子が虹の橋を渡ったと聞かされたのは。
新しい家の人たちも、白ネコを心から愛し、大切に育てた。
しかし、治らない病気が、まだ若い白ネコを襲った。

鬱病だったお父さんは、3年の間に、病気を完治させていた。
すべて、あの白ネコのおげなのだそうだ。
白ネコがいたから、立ち直れたという。
お父さんが社会復帰した直後に、白ネコは旅立ったのだ。

きっと、役目を果たしたのだ。
人に幸せにしてもらった、その分、誰かを幸せにして、旅に出たのだ。
あの子、やさしい子だから。

それから数年が経ち、白ネコを拾った彼女は、結婚して家を出ることになった。
クリスチャンである彼女は、教会で式を挙げた。
真っ白な美しいドレスに身を包んだ彼女は、数名の親族と、教会の控え室にいた。
その部屋のドアから、いきなり、白ネコが入ってきた。
白ネコは、ためらいもせずに、彼女をみつめて「にゃーー」と声をかけ、彼女の足下にやってきた。
ドレス越しの足に、すりすりっと頬を寄せる。
「あら、ネコなんて! どこから入ってきたの?!」
「ドレスが汚れるわ、追い払って!」
慌てる親族を、彼女はたしなめる。
「いいの、このままにしておいて」

式の後、集合写真を撮る。
その時、またあの白ネコがやってきて、彼女のドレスの裾に寄り添った。
ぴったりくっついて離れない。
白ネコは、彼女の結婚式の写真のペストポジションを陣取った。
写真を撮り終わった後、彼女は、白ネコを探したが、もうどこにもいなかった。
教会の人に聞いても、そんなネコは見たことがないと言う。

「私、すぐにわかったの。きっとあの子よ」
彼女は、結婚式の写真を指で優しくなでながらそう言った。

 
C:miu9